Setouchi Vélo

トライアルライドについて[TRIAL RIDE]

ENVIROMENT
#環境整備#兵庫県

トライアルライド レポートvol.1 2023/3/7~8(兵庫県・徳島県・香川県)

2023.03.30

3月7日と8日にかけての2日間、Setouchi Véloのトライアルライドが兵庫県と徳島県にて開催された。通過する市町村の関係者を交えての、レンタルされたEバイクで両日100kmを超える距離を走る試験的なライド。そこで浮かび上がった可能性や課題について、参加者の1人として内側からレポートする。
兵庫県南あわじ市、大鳴門橋にほど近い淡路島南部に集まったのはEバイクにまたがる10人のトライアルライド参加者たち。京阪神のサイクリストのみならず全国的な人気を誇る「アワイチ(淡路島一周)」への挑戦が始まった。トライアルライドとは、プロサイクリストから有識者、メディア関係者、行政関係者まで多種多様なサイクリストが実際にSetouchi Véloの推奨ルートを走り、それぞれの目線で案内表示や路面状況などを含めた走行環境を確認するいわば実走調査だ。

そしてこのトライアルライドの要となるのが、今や世界的にサイクリングへの誘引に欠かせない存在になっているEバイク。サイクリングジャージに身を包んでロードバイクで長距離ライドを行う経験者のみならず、普段スポーツバイクに馴染みのない幅広い層をターゲットにしている。トライアルライドでは、スポーツバイク非経験者ならではの貴重なフィードバックを聞くこともできた。

持ち上げるとズシリとした重みを感じるEバイクだったが、トライアルライド中はその威力を十二分に体感した。いままでにないほどの圧倒的な踏み出しの軽さで、「アワイチ」の難所として知られる淡路島南部のアップダウンも難なくこなし、常に左手に瀬戸内海と大阪湾を見ながら時計回りに淡路島をぐるりと一周。1時間に1回程度の休憩場所には自転車19台とライダー25人が移動可能なサイクリング専用大型バス「サイクルキャビン」も待機したが、リタイア者を生むことなくEバイク集団は快調に春の陽気の中を走り切った。

「今回は途中からの合流になりましたが、このEバイクだったら淡路島を一周してもいいかなと思いました」と語るのは、淡路ワールドパークONOKOROからトライアルライドに合流した南あわじ市の守本憲弘市長。自動車でもなく徒歩でもなく、自転車ならではの景色の流れ方やスピード感について同市長は「自動車と違って視界を遮るものがないので自然と色んなものが目に入ってくる。淡路島を知る手段として自転車が最適であると感じました。南あわじ市は美しい自然だけではなく他にも見どころが多く、それらを組み合わせることで歴史や美食をフルコースで楽しんでいただける」とEバイクの可能性を語る。

実際に自転車で走ることによって課題も浮き彫りになったが、同時に地元ならではのエッセンスを組み込んだルートの提案も。「道が狭い箇所では怖さを感じましたし、自転車だと道路のコンディションがよくわかる。南あわじ市に限らず淡路島には魅力的な裏道が多くあるので、工夫して自転車に適した道を繋いでルートにすることができれば、自転車にとっても自動車にとっても走りやすい環境が実現できるのではないかと思います」と守本市長。

「歴史的にこの南あわじ市は徳島藩の一部だったということもあり、お隣の鳴門市と東かがわ市とは以前から連携しています。今はバスでサイクリストの皆様に鳴門海峡をわたっていただくプロジェクトを共同で行っています。兵庫県と徳島県が大鳴門橋の下層に自転車道を整備する計画を発表しましたので、実現すればよりシームレスにつながり、自転車で渦潮を見ることもできるようになります。より楽しい環境が生まれることは間違いありません」と今後の展望を語る。

守本 憲弘 南あわじ市長
守本 憲弘 南あわじ市長

どれだけライド環境が整っていても、隣接する市町村への繋がりが悪ければサイクリストは集まらない。隣接する県や市町村との広域的な連携こそがSetouchi Véloの真髄であり、互助の関係性が欠かせない。鳴門海峡を挟んで対岸の徳島県鳴門市の政策監を務める小泉憲司氏も、2023年度に整備事業が始まる大鳴門橋の自転車道に期待を寄せる。「鳴門市は東かがわ市と南あわじ市とともに三市で足並みを揃えてサイクリングルートの計画を進めており、今後さらに可能性が広がっていく。南あわじ市はタマネギ畑が名物ですが、鳴門市には鳴門金時のサツマイモ畑がある。そんな中を走るのも鳴門ならではかと思います」。

鳴門市〜東かがわ市を往復する約100kmのトライアルライド2日目に参加した小泉氏は、鳴門スカイライン四方見展望台からの眺めを味わいながら「本当に登り切れるのかと思うような坂もこなすことができた」と、当日朝に出会ったばかりの相棒バイクの性能に驚く。Eバイクの幅広い有用性について参加者からは感心の声と期待を寄せる意見が相次いだ。

小泉 憲司 鳴門市政策監

初日の「アワイチ」に参加した公益財団法人兵庫県園芸・公園協会の理事長を務める伊藤裕文氏も「これだけ快適に走れるとは予想していなかった」と褒め称える。「これまで幾度となく淡路島を自動車で走っていますが、自転車で見る景色は全然違いました。臭いを含めて風を感じ、人の声を聞きながら走ることができる。

これは自動車では決して味わえない感覚でした。初めてスポーツバイクに乗ってこれだけ快適に走れたんですから、年齢を問わずに自転車ライドを楽しめる。とにかく景色を含めて最高でした」。

伊藤 裕文 公益財団法人兵庫県園芸・
公園協会 理事長

Eバイクの普及はSetouchi Vélo協議会の軸でもある。本州四国連絡高速道路株式会社の取締役常務執行役員で、同協議会を牽引する役割の森毅彦氏は「Eバイクがあれば、サイクリストのためだったサイクリングが、みんなのためのサイクリングになる。今までのサイクリングは、サイクリングジャージを着たアスリートばかりが楽しんでいるものでした。

そんなアスリートのためのサイクリングに、Eバイクが変化をもたらしている。こんな素人の私でもEバイクがあれば150kmを超えるようなアワイチを走り切れるんですから」と実体験に基づく手応えを言い表す。

森 毅彦 本州四国連絡高速道路株式会社
取締役常務執行役員

「どんな人間でもサイクリングを楽しむことができる世界を実現したい。まずは、瀬戸内地域をみんなに楽しんでいただけるサイクリングのエリアとして国内外に発信したい」という森氏の言葉通り、アスリートに限定しないEバイクの存在はサイクリストの分母を圧倒的に拡大させる。もちろん分母の拡大は「乗り慣れていないサイクリスト」の増加につながるため、走行環境の整備と改善が求められる。例えばトライアルライド2日目に登場した香川県と徳島県を結ぶ「鵜の田尾トンネル」は路肩が小さく、交通量も多いためコースからカット。

参加者はサイクルキャビンに乗ってその難所をクリアし、鳴門市まで引き続きライドを楽しんだ。徳島県発のサイクルキャビンなど、各地域が独自で生み出したアイデアも共有されることで、よりサイクリストに優しい環境の整備が進むのは間違いない。

もちろん走行環境の整備と改善は、路面の補修や走行レーンの充実、標識の設置といった物理的な取り組みにとどまらない。実際に走行すると、車道の左端を走るサイクリストと追い抜いていく車両の距離が近いと感じる地域は少なからずあった。逆にどうしても「自転車通行可」の歩道を徐行して通過しなければならないシチュエーションもあり、自動車と歩行者の間に板挟みになる肩身の狭さも。軽車両にカテゴライズながらどっちつかずの立ち位置に置かれがちだけに、自転車の交通ルールの徹底が求められている。

トライアルライドは、ヘルメットの着用も含めて、自転車の然るべき姿を各地域に披露する使命も担っていると感じる。道路を使うすべての運転者・歩行者が互いを理解しながら、認め合い、共存することで、各地域の地元住民にとっても安全性と利便性が高い、環境に配慮された快適な街づくりにつながるはずだ。

県境に関係なく楽しむことができるサイクリング。「走って楽しい」のが自転車の真骨頂だが、単純に個人で楽しむだけではなく、コミュニティ全体を健康な方向にいざなうポテンシャルを秘めている。そしてSetouchi Véloはその方向性をより広域にもたらすポテンシャルを秘めている。試行錯誤を繰り返しながら、連携することによって確実に瀬戸内エリアが魅力的な地域へと進化していることを感じさせるトライアルライドが終わった。


(撮影・編集:辻 啓)

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