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Setouchi Vélo協議会 広島県安芸太田町ミーティング
2025.06.10

令和7年6月2日(月)、広島県の安芸太田町において市町村ミーティング、『Setouchi Vélo協議会 広島県安芸太田町ミーティング』が行われた。広島県を中心に徳島県、香川県、愛媛県などをはじめとする構成団体及び、参加団体である各市町から参加者が集まった。
トライアルライド
Eバイクで巡る中山間地
曇り空のもと実施されたトライアルライドは、温井ダムをスタートし、平見谷をめぐって再び同ダムに戻る全長18kmの周回コース。出発前には、開催地からの挨拶に加え、ヘルメットの正しい着用法、Eバイクの乗り方、ハンドサインの講習が行われ、温井ダムでの記念撮影を終えてライドがスタートした。コースは中山間地ならではの山深く緑豊かな景観が広がる。国道を外れると川のせせらぎが響き、米農家が営まれる小さな集落が点在する。往路は、中山間地特有の長く続く上り坂が続く。
しかし、参加者が乗るEバイクのアシスト機能により、坂道も快適に進むことができ、疲労感は少ない。中山間地では、自力走行のツアーが体力面など様々な課題を抱えていたが、Eバイクの導入によって多くの制約が解消されつつある。
安芸太田町は古くから林業が盛んな地域であり、今後はその林道を活用したEMTB(電動アシストマウンテンバイク)ツアーの開催を目指し、スタッフ育成や環境整備に取り組んでいくという。Setouchi Vélo協議会はこれまで、海や川に面したエリアでのミーティングを多く行ってきたが、今回のようなEMTBによる新たな挑戦は、他の中山間地域にとっても持続可能な観光モデルの可能性を示すものとなった。








ミーティング
中山間地の新たな観光の可能性
サイクルツーリズムを通じた地域活性化に向けて

関係者あいさつ
トライアルライド後に行われたミーティングでは、最初に安芸太田町町長の橋本博明氏が来場者への歓迎の言葉を述べるとともに、町の観光施策におけるサイクルツーリズムの重要性について語った。町は山林に囲まれた自然豊かな環境にあり、この資源を生かした地域活性化を目指している。観光を「見るだけ」で終わらせず、体験型の滞在を促すことで、地域への経済波及効果を高めていく方針である。
近年は町独自のサイクルイベントを開催しつつ、昨年度からはSetouchi Vélo協議会にも参画。海側中心だった広島県内のサイクルツーリズムを、山側へも広げる契機として、町として積極的に関わる姿勢が示された。また、舗装路だけでなく、未舗装の山間ルートの開拓にも意欲を見せた。町長は、安芸太田町が中山間地域のサイクルツーリズムモデルとなることを目指し、今後も広島県や協議会関係者と連携を深めながら取り組みを進めていく考えを示し、歓迎のあいさつを締めくくった。
次に挨拶に立った本州四国連絡高速道路株式会社 地域連携部長の村岡良文氏は、サイクルツーリズム推進への継続的な支援と、関係者への感謝の意を述べた。市町村ミーティングは今回で第8回を数え、地域の魅力を再発見し、課題を共有することを目的に、関係者とともに開催されてきた。また、サイクリストを支援する「Setouchi Véloスポット」の拡充や、「シェア・ザ・ロード」活動の推進にも触れ、今後は中国・四国地域を横断する広域的な展開を進めていく方針が示された。
最後に広島県知事 湯﨑英彦氏のビデオレターが紹介され、そのなかで湯﨑知事は、安芸太田町でのSetouchi Vélo協議会市町村ミーティング開催を歓迎し、関係者への感謝を述べた。協議会のネットワーク化や情報発信の取り組みは、持続可能な地域振興に貢献していると評価。広島県でもインバウンド需要の高まりを受け、観光施策の一環としてサイクルツーリズムを推進しており、安芸太田町での活動にも期待を寄せた。知事自身のライド経験や、マウンテンバイク拠点整備への取り組みを紹介し、今後の講演や議論が地域の参考となることを願い、関係者の連携強化を呼びかけた。



開催地発表① 広島県
「マウンテンバイクの拠点づくりに向けた取り組み」

あいさつの後に行われたのは広島県、安芸太田町による開催地発表。広島県観光課木津早苗氏は、広島県はナショナルサイクルルート(しまなみ海道)に続く新たな観光資源として、県内の山間部を活かした「やまなみ」型サイクルツーリズムの展開を目指している。その中核として、安芸太田町をマウンテンバイク拠点候補に位置づけ、豊かな自然や既存施設を活かした活用を検討している。温井ダムリゾートを起点とする全長約30kmの林道を通るコースに加え、SUPやシャワークライミングなど多様な自然体験との連携も視野に入れていると話した。
広島県はすでに最大の自転車メーカー、株式会社ジャイアントと覚書を締結し、プロライダーによるガイド育成も進行中。今後は試行段階を経て、将来的には広島全体をマウンテンバイクのフィールド化とするビジョンを描いている。観光消費の拡大や宿泊促進も視野に入れた、地域振興とアウトドア観光の新たなモデル構築が期待される発表となった。
開催地発表② 安芸太田町
「里山を生かしたサイクリングの取り組み」

続いて安芸太田町参事 下村佳世氏の発表。広島県北西部に位置する安芸太田町では、豊かな里山環境を活かしたサイクリング観光の推進に取り組んでいる。2016年に「やまがたサイクルツーリズム推進協議会」を設立し、地域資源と人とのふれあいを軸に、6つの多様な推奨コースを整備。案内標識やサイクルオアシスの整備も進め、誰もが快適に楽しめる環境を構築してきた。
また、イベント開催やマップの発行を通じて認知度向上を図り、マウンテンバイク拠点整備に向けて、今後は地域おこし協力隊などの活用により、林道を活かしたEマウンテンバイクツーリズムや拠点運営体制の構築を目指す。町全体で進める持続的な地域活性のモデルとして注目される内容となった。
基調講演「繋がる地域コミュニティ作り」

白馬村でマウンテンバイクを活用した地域づくりに取り組む、白馬マウンテンバイククラブ代表の原知義氏より、自然・文化・人をつなぐ持続可能なコミュニティ形成の実践事例が紹介された。原氏は宿泊施設の経営をきっかけにマウンテンバイクと出会い、地域の子どもたちを対象とした自転車教室を2009年より開始。2017年にはクラブを設立し、マウンテンバイクを軸とした放課後活動や公式大会の開催を通じて、地域に根ざしたスポーツ文化の基盤を築いてきた。
活動は子どもから大人まで幅広く、2023年には中高生の部活動を地域クラブが担う「社会体育」へと展開。部活動の枠を越えて地域一体となって支える体制が構築されている。また、清掃活動や地域イベントの開催、海外のケアンズMTBクラブとの姉妹クラブ締結など、国内外とのネットワークも広がりを見せている。
今後は、Eバイクを活用した大人向けのマウンテンバイククラブの設立や、宿泊・カフェ・サイクルステーションを併設する複合施設の建設など、地域内外の交流と経済循環を生み出す新たな構想も進行中である。地域資源を活かし、人と人、人と自然をつなぐ仕組みづくりは、安芸太田町における今後の取り組みにも多くの示唆を与える内容となった。
パネルディスカッション「山間部におけるサイクルツーリズムの可能性」

ミーティングの締めくくりとして行われたのは、パネルディスカッション。進行役は前出の門田氏が務め、パネリストとして橋本氏、木津氏、原氏の3名、さらに、オサカナ農園自然学校代表の小坂利隆氏、サイクルスポーツ編集部 統括編集長の迫田賢一氏、バイシクルクラブ編集部 編集長の山口博久氏も加わり、地域関係者と専門家が「自転車の可能性と展望」について意見を交わした。
小坂氏は現在安芸太田町で、子ども向けの自然体験活動や親子キャンプの企画・実施を通じて、人と自然とのつながりを育む取り組みを行っている。また、Eバイクを活用したツアーの実践にも取り組んでおり、代表的な地域資源である「井仁の棚田」を巡るコースの造成・運営を開始している。
今後は、そうした地域資源を活かした体験型観光をインバウンドにも対応できるように展開していくことを視野に入れている。具体的には、多言語での情報発信や広報体制の強化、外国人観光客向けの受入れ体制づくりなどを見据え、地域と協力しながら体験観光の多様化と持続可能性の確保を目指している。
迫田氏は「自転車は遊びと遊びをつなぐ移動手段」という言葉で、自転車が単なるスポーツではなく体験全体の一部としての価値を説いた。山口氏は、「自転車は教育、観光、競技をつなぐ文化」と述べ、白馬村の事例を参考に、地域全体で取り組む意義を語った。マウンテンバイクを通じて子どもから大人までが関わることで、文化が根付き、持続可能な地域モデルにつながるという。
橋本氏からは「自転車を単なる移動手段ではなく、地域体験の手段として捉えたい」との意見があり、地域主体のプランづくりを支援する姿勢が示された。原氏は「主体性がなければ続かない。補助金頼みではなく、自分が本当にやりたいことを地道に継続することが大切」と述べ、持続的な取り組みに必要な意識改革を促した。木津氏は湯﨑知事の理解と後押しもあり、県として人材育成や環境整備を支援していく。ただし主役はあくまで地域と強調し、官民連携の重要性を訴えた。
議論を通じて、自転車は移動手段にとどまらず、教育、観光、文化をつなぐツールであり、特に中山間地域ではその可能性が大きいことが再確認された。重要なのは、地元の主体性と、小さな成功を積み重ねながら持続可能な取り組みへと育てていく姿勢である。
安芸太田町においては、自然体験活動やEバイクツアーなど、すでに地域資源を活かした実践が始まっており、今後は多言語発信や外国人観光客の受け入れ強化といった、より広域的な観光戦略への展開が期待される。加えて、子どもから大人まで幅広い層が関わるマウンテンバイクの文化形成や、行政と地域住民、民間が連携するモデル構築を通じて、「地域が主役」となる持続可能な観光のかたちを体現していくことが望まれている。
このように、安芸太田町が示した柔軟で実践的な取り組みは、他の中山間地域にとっても大きな示唆を与えるものであり、今後の展開に大きな期待が寄せられていくことだろう。




