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Setouchi Vélo吉野川ミーティング
2026.03.24

ヒルクライムの先にあるもの ― 吉野川市、自転車活用の戦略
徳島県吉野川市で2月25日に開催されたSetouchi Véloミーティング。雨天によりトライアルライドは中止となったが、午後の議論はむしろ熱を帯びた。ヒルクライム大会の育成、ガイドの価値、Eバイク活用、そして市民への波及。行政、民間、学術、メディアが一堂に会し、「自転車をどう地域の力に変えるか」を本気で語り合った。始まったばかりの挑戦だからこそ描ける未来が、そこにはあった。
トライアルライドバスで巡る吉野川市
当日はあいにくの大雨となり、予定されていた吉野川沿い約12kmのトライアルライドは中止となった。しかし内容を切り替え、吉野川市と阿波市の地域資源を巡るバス視察が実施された。走ることはかなわなかったものの、土地の魅力や今後の可能性を多角的に確認する機会となった。
出発前には吉野川市長 原井敬氏が挨拶に立ち、県内外からの参加者への歓迎と感謝を述べた。吉野川市は徳島県中央部に位置し、一級河川・吉野川と四国山地、讃岐山脈に囲まれた自然豊かな地域であることを紹介。「本来は自転車で走って体感していただきたかったが、今日は視察という形で吉野川市の魅力を感じてほしい」と語った。
バスはまず四国八十八ヶ所第八番札所・熊谷寺へ向かい、遍路文化が根付く土地であることを確認。その後、阿波麻植大橋から学島橋(潜水橋)を車窓視察し、ひまわり農産市鴨島店へと向かった。
車内ではまず株式会社コイデルの門田基志氏が説明を行った。「線を引くだけでは人は来ない。回る仕組みが重要だ」と指摘。四国遍路のご朱印帳文化を例に挙げ、物理的なスタンプや達成感が再訪を促す“仕組み”を生み出していると解説した。吉野川市は遍路文化という強力な土壌を持つ地域であり、自転車と組み合わせることで新たな回遊モデルを構築できる可能性があると語った。
続いて吉野川市商工観光課課長補佐の原井慎司氏が、地域の特性について解説した。吉野川は急流で水量差の大きい“暴れ川”として知られ、増水時には沈む構造の潜水橋が独特の景観を形成していることを紹介。また、約500ヘクタール、東京ドームの敷地面積100個分あまりの広さを持つ善入寺島が現在は優良農地として活用されていることに触れ、本来はこの地を自転車で巡る予定であったと説明した。
さらに原井市長は、高越山(こうつさん)ヒルクライムレースの開催や、自転車活用を市の施策として打ち出した経緯を紹介。観光誘客のみならず、市民の移動手段としての利活用も視野に入れ、今後は自転車活用推進計画の策定を進めていく方針を示した。
雨によりEバイクでの走行はかなわなかったものの、熊谷寺、潜水橋、ひまわり農産市鴨島店という三つの拠点を巡ることで、吉野川市の自然・文化・農業を横断的に確認するバス視察となった。自転車を軸にこれらの資源をどう結び、回遊を生み出していくか。今後の具体的な展開に向けた第一歩となる視察であった。








ミーティング
吉野川市における自転車活用の現在地
午後のミーティングは、会場を移して本格的な議論へと移った。冒頭、開催地である吉野川市の原井市長が挨拶に立った。原井市長は、県内外からの参加者に対し改めて歓迎と感謝の意を述べたうえで、吉野川市が自転車の利活用に本格的に取り組み始めてまだ1年余りであることを説明した。実績の蓄積はこれからだとしつつも、だからこそ本ミーティングを誘致し、各地の知見や情報を得て今後の施策に生かしていきたいとの考えを示した。
その起爆剤の一つとして挙げられたのが、高越山で開催したヒルクライムレースである。原井市長は自ら制作したPR用の帽子を紹介しながら、自転車イベントを通じた機運醸成への意欲を語った。行政主導で始まった取り組みを、いずれは市民や職員が自発的に担う段階へと発展させたいという思いもにじませ、「本日の議論が実り多い機会となることを期待する」と締めくくった。
続いて挨拶に立ったのは、本州四国連絡高速道路株式会社 取締役常務執行役員 森田真弘氏。森田氏は、Setouchi Vélo協議会の市町村ミーティングが徳島県内で初開催となることに触れ、開催に尽力した吉野川市および関係者への謝意を表した。
森田氏は、同協議会が2022年10月の発足以来、瀬戸内周辺地域を環境に配慮した安全で快適なサイクリング推進エリアへと育て、地域のブランド価値向上と持続的振興を目指してきたことを説明。発足当初29団体だった加盟団体が現在は89団体へと拡大し、島根県の参加によって中国・四国全域をカバーする体制となったことも紹介した。また、サイクリングマップの発行や「シェア・ザ・ロード」啓発活動の推進にも言及し、本日の開催地発表およびパネルディスカッションが有意義な情報交換の場となることへの期待を述べた。





開催地発表
吉野川市の自転車活用推進の現在地
はじめに登壇したのは、吉野川市 商工観光課 課長補佐 原井慎司氏。2024年度から本格始動した「自転車を活用したまちづくり」の取り組みが報告された。柱は大きく四つ。①ヒルクライムレースの開催、②サイクルツーリズムの推進、③受入環境整備、④市民向けの安全・健康施策である。
象徴的な事業が、高越山を舞台にしたヒルクライムレース。プレイベントを経て2025年に本大会を開催。全長13.2km、標高差920mの本格コースは、天候に恵まれなかったものの参加者から高い評価を得た。道路補修や地域理解の醸成を進めながら、継続開催を目指している。 あわせて、潜水橋や和紙体験など地域資源を活かしたガイドツアーを実施。県産材を用いたサイクルラック設置や「おもてなしスポット」制度創設など、受入環境整備も段階的に拡充している。行政主導から地域主体へと広げる基盤づくりが進められている。

産業と文化をつなぐ挑戦
続いて登壇したのは、眞鍋商会 代表取締役 眞鍋祐樹氏。吉野川市出身の三代目自転車店主として、実践の立場から発表を行った。
眞鍋氏は、単なる観光誘客ではなく「産業と文化を生む仕組みづくり」が必要だと語る。取り組みの核となっているのが「ミニベロアドベンチャーツーリズムサミット」。業界のキーパーソンを招き、少人数で地域を巡るツアーを重ねてきた。
目的は一過性の集客ではない。来訪をきっかけに新たな仕事や製品開発が生まれ、地域に還元される構造をつくることだ。実際に参加企業との関係から自社ブランド「BLUES BIKE JAPAN」を立ち上げ、四国でのフレーム製造にも着手。観光と製造を結びつけるモデルを模索している。
「人が来てお金を落とすだけでは続かない。産業が生まれ、文化が根づく仕組みが必要」と語り、地元に深く関わる関係人口の創出こそが持続性を生むと強調した。

点と点をつなぐツーリズム
最後に登壇したのは、徳島大学 総合科学部 副学部長・矢部拓也教授。中心市街地活性化研究からサイクルツーリズムへと研究軸を広げた立場から、理論的視点を提示した。
矢部教授は、サイクルツーリズムの強みを「点と点をつなぐことができる柔軟性」にあると指摘。大規模開発のような合意形成の困難さが少なく、小規模でも成果を生みやすいと説明する。一方で、マスツーリズム化には警鐘を鳴らし、少人数・高付加価値型で地域経済循環を意識する必要性を説いた。
重要なのは、地域内でお金が回る仕組みづくり。日常的な信頼関係の延長線上にツアーが成立するのであり、「普段から地域で遊び、関係を築いているかが問われる」と語った。
自転車は目的ではなく手段。地域文化や産業をつなぐ媒体として活用することが、持続可能なモデルにつながると締めくくった。

パネルディスカッション
吉野川モデルの可能性
コーディネーターを務めたのは門田氏。パネリストには原井市長、眞鍋氏、矢部教授、に加え(一社)イーストとくしま観光推進機構専務理事 渡辺隆仁氏、サイクルスポーツ編集部 迫田賢一氏、バイシクルクラブ編集部 東宏祐氏が登壇し、それぞれの立場から議論が展開された。
議論の軸となったのは「誰をターゲットにするのか」「ガイドの価値」「ヒルクライムの展望」「市民への波及」という四点である。
まずガイドの役割については、東氏が「地元を深く知る人が案内することで旅の満足度は格段に高まる」と語り、迫田氏は「日本では自転車ガイドの地位と対価がまだ低い」と課題を提示した。一方、矢部教授は「マスツーリズムではなく、点と点をつなぐ小規模・高付加価値型で進めるべき」と強調。ターゲットを明確にし、来てほしい人に合わせて設計することが重要だと述べた。
ヒルクライム大会については、認知度向上のためのメディア活用や、他地域大会との連携の可能性が議論された。迫田氏は「大会はPRの継続が鍵」と指摘し、東氏もデジタル施策の活用を提案。門田氏からは石鎚ヒルクライムとの連携案も示され、市長は前向きな姿勢を示した。
市民への波及について眞鍋氏は「まず地元で自転車に乗る人を増やすこと。練習風景が日常になれば文化は育つ」と語り、生活の中での自転車利用拡大を提案。迫田氏は「ノイズの少ない道は大きな価値」と環境面の魅力を指摘した。渡辺氏は「トップの理解と継続が何より重要」と行政の姿勢に期待を寄せた。
最後に市長は、自転車利活用推進計画の策定を進める考えを示し、「生活の中に自転車を取り込み、地域全体で循環する仕組みをつくりたい」と締めくくった。
議論を通じて見えてきたのは、吉野川市はまだ始まったばかりだからこそ、失敗事例を学び最短距離で進める可能性を持つという点である。競技、観光、産業、教育――自転車は単なる移動手段ではなく、地域を編み直す媒介となり得る。その方向性をどう選び、どう磨き込むか。吉野川市の次の一手が、今まさに問われている。




