Setouchi Vélo

イベントレポート[EVENT REPORT]

EVENT REPORT
#イベントレポート#愛媛県

Setouchi Vélo協議会の第4回市町村ミーティング、上島町で開催

2024.03.25

上島町の時間を走り知る

広島県との県境、愛媛県上島町は25の島からなる。3000本の桜並木の道がある積善山が有名だが、風光明媚な環境がありアウトドアアクティビティが盛んな土地である。岩城橋が2022年に完成し、岩城島、生名島、佐島、弓削島の4島は橋で往来することが可能になったことで、観光客が訪れやすくなった。4島をつなぐサイクリングロードは【ゆめしま海道】と名付けられ、しまなみ海道のすぐそばという立地から、サイクリストも多く訪れる場所となった。

そんな上島町で令和6年3月14日に「Setouchi Vélo協議会愛媛県上島町(ゆめしま)ミーティング」が行われた。弓削港ひだまり公園に集まった参加者たちはトライアルライドへ。用意されていた自転車はジャイアント社製のEバイクだ。Eバイクとはペダルを回す力に電動のアシストがついた自転車のこと。体に負担のかかる上り道で走者をサポートしてくれるので、楽に走ることができる。そのため全国各地の観光地などでの配備が進んでおり、観光促進の一助となっている。

自転車の乗り方、Eバイクの注意点などについてレクチャーを受ける①
自転車の乗り方、Eバイクの注意点などについてレクチャーを受ける②

サイクリングウエアに着替えた参加者たちは、まず自転車の乗り方についてのレクチャーを受けた。自転車に普段乗っていても、ハンドルの左右についたブレーキのどちらが前輪の、どちらが後輪のブレーキなのか?ということを認識している人は多くない。難しいことではないが知ること、意識することによってこれまで以上に安全に走行することは可能になる。自転車の基本的な走行について、集団で走る時の合図について、Eバイクの扱い方についてのレクチャーを受けた参加者たちは大きくうなずくなど納得している様子だった。

弓削大橋を背景に記念写真
長い上り坂もEバイクなら楽に走れる

弓削港ひだまり公園をスタートする。道程は岩城島までの往復16km。弓削島の海岸線を進み、すぐに弓削大橋に入る。スタート前は不安そうな様子だった参加者も走り出してしまえば、笑顔になっていた。生名島に入ると岩城橋へ向かう長い上り道が続く。Eバイクからはモーターの駆動音が聞こえる。軽快に走る参加者たちからは笑顔が見られたり、話声も聞こえる。Eバイクで走れば、走ることを楽しむだけでなく、美しい景色を愛でたり、コミュニケーションを楽しむこともできるのだ。

岩城橋をバックに美しい景色のなかを走る
上村町長の言葉の通り常に海を見ることができる
岩城島の休憩ポイントで振る舞われた岩城産レモンを使ったドリンクが参加者の喉を潤した
インタビューを受ける上島町長上村氏

岩城島で折り返して再びの岩城橋へ。橋からは壮大な海景色が広がっており、陽の光に照らされた波がキラキラと光っている。遠くにぼんやりと見える島々は旅情を誘う。上島町には信号機がなく、街中で感じる停車、出発を繰り返すストレスがない。そして車の交通量も非常に少なく、Eバイクの上には、心地のよい風を感じながら、のんびりとした時間が流れる。
「5分」、そんな短い時間のフェリーで訪れることができる上島町には独特の時間が流れているのだ。

岩城橋からは雄大な景色が広がる

DX化は必要か?

本州四国連絡高速道路株式会社 後藤社長の挨拶

トライアルライドが終わり、ミーティングが始まる。2022年10月に発足したSetouchi Vélo協議会、市町村ミーティングは今回で4回目となる。本州四国連絡高速道路株式会社代表取締役社長後藤政郎氏は上村俊之上島町長に対して協議会及び各地でのミーティング参加への謝辞を述べ「ライドをさせていただいて、しまなみ海道もすばらしい海道ですが、ゆめしま海道も非常にすばらしいコースだと思いました。―通行する車も自転車にやさしい印象を受けましたし、景色もすばらしい。―世界に認められるサイクリングの推進エリアということを担って行くんだろうという期待をしています。瀬戸内地域の持続的な地域振興を実現するために、事務局としてもさまざまな活動を続けていきたいと思っております」と話し、その取り組みとして、4月からサイクリストをサポートする店舗、施設をSetouchi Véloのホームページで掲載されることなど紹介された。

続いて株式会社コイデルの門田基志氏が登壇する。門田氏は自転車の活用推進に関する会社の代表を務める傍ら、MTB(マウンテンバイク)のプロ選手としても活動をしている。基調講演では同氏が選手として海外のレースを転戦しながらに現地で見てきたヨーロッパ各地の自転車事情についての話がされた。

オーストリアのインスブルックでは自転車と歩行者を分けるための段差を設けた自転車専用のレーンが配置されていることや、サイクリストは国境を越えて走るサイクリングが一般化していることなどが語られたが、DX化についての内容が興味深かった。日本では飲食などの企業はデジタル技術を活用してサービスの効率化を進めている。携帯でQRコードを読み込んでメニューを表示するシステム、○○ペイなどの決済システムでサービスを受けることは多くなっている。しかし、観光においてその効率化は必要なのだろうか? 土地の食べ物について店員に聞いたりすることやコミュニケーションをとることは楽しみではないだろうか? ヨーロッパでは日本のような効率化は行われていない。クレジットカードで支払うのが一般的なのだ。今後、富裕層を含め海外からのツーリストが何を求めているのか、そのひとつひとつを細かく捉えていく必要があると感じる話であった。

上島町のいまとこれから

4回目となる市町村ミーティングには40人ほどが参加した

門田氏に加え、上島町長上村氏、自転車雑誌サイクルスポーツ迫田賢一氏と自転車雑誌バイシクルクラブ山口博久氏が登壇し、上島町のサイクリング環境についてのディスカッションが行われた。上島町はサイクリングにとって素晴らしいエリアだ。島へアクセスする船は1つのイベントであるし、走行中は信号がなく、つねに海を見ながら走ることができる。海の幸はとても美味であり、独特ののんびりとした時間が人々の心をほどいていく。町長は「それに加えて、歴史、文化もございます」と付け加える。

しかし、よい未来のためには課題がないわけではない。上島町は日曜には飲食店が開いていない。これまでは町内の人々を相手に商売をしていた地元の飲食店の人々は、サイクリングによって観光地化されつつある状況にまだ感覚が追いついていないのである。また宿泊に関しても島内で200弱/日であり、決して多くはない。「今後は島民の意識を変えていかなくてはいけないと思う」と町長は話す。

自転車では「〇〇イチ」という島や湖、半島を一周する楽しみ方を主とする人も多いが、その場合土地でお金を使わないことが多い。ならば上島町は滞在型の観光を進めるほうがよい。宿泊のキャパシティが限られるので海水浴を中心に観光客が集まる夏場ではなく、サイクリングはじめ、低山登山、釣り、その他のアクティビティを閑散期となる時期に楽しむ方法を紹介する。1年を通して観光客が訪れることで島民の意識も変化していくであろうし、それにともなって観光地として充実していくであろう。

上村町長は言う「上島町には観光地として武器になるようなものがないと思っていた。しかし、海外含めIターンで島に住むようになった人々から多くの発見をいただいている。また、台湾の観光地へ行ったことで、上島町のほうがよいと思える場所も少なくなかった。上島町には武器となるものがあることに気づかせてもらっている」と。

門田氏は自転車雑誌の代表2人の意見を踏まえて言う「町長は1泊2日と言うが、3泊でも4泊でも滞在する魅力があると思う。島独特ののんびりした時間を過ごしながら、自転車のツアーに参加したり、他のアクティビティを楽しんだりすることがいいと思う」と。

ミーティングの後、上島町長上村氏は「上島町でみなさんにEバイクを乗っていただいて、このゆめしま海道はすごく美しいコースなのですが、島なので起伏が激しいところがあります。ただEバイクなら坂道がまったく問題なくなるので、ゆめしま海道にとってすごくいいツールになると思っています。上島町にはご家族連れや女性の団体も多くいらっしゃいます。Eバイクを使うとどなたでもどこでも走れます。行きづらい場所には景色のよい場所も多いのでEバイクを使うと綺麗な景色に出会えると思います。上島町には観光に耐えうる十分な環境はありますが、今後は細かく交流や観光を見るべきではないと思います。海外の方もターゲットにしなくてはいけない。そうしたときには、Setouchi Véloのように広域で魅力を訴えていくべきであると思います。いろんなセレクトができるようにすることが、今後の日本の観光にとってもすごく有意義であると思います」と話した。

地元視点では見えない土地の魅力はIターンで来た人々や、さまざまな土地を見てきた自転車雑誌の両氏のような人々によって意見が提示され、上村町長のような大きなビジョンがあることで、上島町は島民の理解を得ながら観光地へと変化していくのだろうと感じた。