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鳥取県で初開催 Setouchi Vélo境港・米子ミーティング
2024.05.07
令和6年4月25日(木)、鳥取県において『Setouchi Vélo境港・米子ミーティング』が行われた。
昨年10月にSetouchi Véloの構成団体となった鳥取県は日本海に面しており、東部には日本最大の砂丘である鳥取砂丘、西部には西日本最大級のブナ林が広がる大山を擁する自然豊かなエリア。
協議会で行われたトライアルライドとミーティングの様子をお伝えする。
鳥取県は積極的に自転車活用を進める県であり、海岸線を中心にいくつものサイクリングルートが整備されている。県西部に位置する中海を周回するコースや、ヒルクライムを堪能できる『ツール・ド・大山サイクリングルート』などさまざまな走力、楽しみ方にあわせたコースがある。
今回、トライアルライドで走ったのは弓ヶ浜に配された『白砂青松の弓ヶ浜サイクリングコース』の一部。境港市・夢みなとタワーをスタートして、米子市・米子市観光センターを終着地とする約15kmの道程だ。この日の参加者は30人ほど、過去に他地域でのトライアルライドに参加した人たちも少なくない。
開催地の境港市副市長・清水寿夫氏のあいさつから始まり、株式会社OGKカブト柿山昌範氏による『ヘルメットの正しい被り方』の講習、株式会社コイデル門田基志氏による『Eバイクの乗り方、ハンドサイン』講習が行われた。
ペダルを漕ぎ出し夢みなとタワーをあとにすると、すぐに弓ヶ浜サイクリングコースに入る。左手に広がる青い海、長く続く砂浜、Eバイクの進む先には『伯耆富士』と称される美しい独立峰・大山の頂が見える。ほとんどアップダウンのないサイクリングコースゆえに速度は上がる。青い空と体に浴びる風がとても心地よかった。
コース中盤、少し海を離れて川沿いの道へ入る。小舟がいくつも停泊している様子を見ると、それまでの広大な景色との対比を感じられてなんとも味わい深い。自然の美しさと人々の生活のかおりが旅の感覚を盛り上げてくれる。自転車でしか来られない場所、自転車の速度だから感じられる感覚がある。 弓ヶ浜公園までくれば、フィニッシュまではあと少し。海岸沿いを離れ、目前には松林が広がる。Eバイクはその間を縫うように配された道をトレースしていく。再び海が見えるとすぐに終着地に辿り着いた。性別年齢問わず、参加者たちからは笑顔があふれていた。
自転車活用推進の新たな動き
ライド後のミーティング、まずは開催地である米子市長・伊木隆司氏の挨拶から始まる。開催地として選ばれたことの謝辞を述べ「トライアルライドで走っていただいた『白砂青松の弓ヶ浜サイクリングコース』は令和2年3月に完成したサイクリングロードで、普段は親子が一緒に自転車で走っていたりするほのぼのとしたサイクリングコースです。また、境港には世界中から多くのクルーズ客船が訪れますが、多くの乗客の方から、弓ヶ浜の弓形の地形とその先に見える大山の景色がひとつの見どころだというふうに言われました。走っていただくなかでも弓ヶ浜が大山に向かって伸びている様子が見られる風光明媚なコースであるのが一つの特徴でございます」。
「私たち米子市は、鳥取県や周辺の市町村と一緒になってサイクリングの活性化を進めていっております。この度はミーティングが鳥取県で行われたことを大変嬉しく思っております。我々だけでいままで頑張って来たんですけれども、先進地であるみなさんと一緒に進めて参りたいと思います。有意義なミーティングになることを祈って私からの祝辞とさせていただきます」と締め括った。 続いて本四高速取締役常務執⾏役員の森田真弘氏が挨拶を行う。「Setouchi Véloは瀬戸内とその周辺地域の環境に配慮して、安全快適な、そして世界にも認められるサイクリングの推進エリアを目指しています」とSetouchi Véloの基本的な目標について話したうえで、魅力的な地域振興の実現について、またこの4月にスタートしたサイクリストをサポーツする『Setouchi Véloスポット』について、さらに今年から始める『シェア・ザ・ロード』と称した道路を快適に共有するための取り組みについて語り参加団体の協力を求めた。「今年11月に広島県でSetouchi Véloの総会を開催する予定でございます。みなさまもご協力をお願いします」と話した。
相互交流が活性化への近道
次に株式会社コイデル代表取締役の門田基志氏による基調講演では、『欧州の⾃転⾞事情と広域連携』というテーマで世界的自転車先進エリアであるヨーロッパや台湾についての自転車事情が紹介された。門田氏は世界最大の自転車メーカージャイアントと契約するMTBのプロ選手をする傍ら愛媛県の自転車推進事業のアドバイザーとして活動を行っている。同氏が紹介した話のなかで特に興味深かったのが下記である。
「いろいろな場所でアドバイスをするときに、みなさんインバウンドが欲しいとか言われることが多いんですが、来てくださいばかりだとサービスを続けることに疲弊するので、まずこちらから行くこと、そして来てもらうこと、しっかりと交流をすることが大事だと話します。台湾と愛媛県は自転車を通じて交流が行われています。こちらから台湾に走りに行くと、あちら側も『四国一周にいってみようか』ということになります。
またSetouchi Véloにおいては、広域連携という枠組みのなかで“走る環境が統一されていること”が重要だと思います。サインが違う、車のマナーが悪くなるなどいろんな違いがあることで走りにくいという印象になってしまいます。台湾ではバイク用に作られた道がいまはサイクリングロードになっていてラインが引かれているので、自転車用の道だということがすぐにわかる。走りやすい環境が整っています。
このように走る環境が整っていて、交流が続いていくとそれまで関係していなかった人々の間でも相互交流が始まり拡大していく流れがあります」一方的な活動ではその限界値は限られてしまうが、相互に活動を行うことで大きく広がっていくという可能性があるのだ。これはインバウンドに対してだけでなく、このSetouchi Véloにおいても同じことが言えるのではないだろうかと感じた。
愛媛県のこれまでとこれからの取り組み
続いて行われた基調講演は愛媛県東京事務所所⻑の河上芳一氏による、『⾃転⾞先進県、愛媛のこれまでとこれから』である。愛媛県は『自転車新文化』を普及させるためにこれまで十数年間取り組んできている。その自転車新文化というのは、自転車は通勤や通学という目的だけでなく、健康や友情をもたらしてくれるツールであるという考え方を普及していこうという取り組み。現在、愛媛県庁には自転車新文化推進課という部署が設立されており、自転車のある生活を通じて生活の質を向上するという目的で活動を行っている。
そこに至るまでには中村時広知事が就任した平成22年、しまなみ海道を世界に発信していこうという思いから、世界一の自転車メーカージャイアント創業者の劉金標氏と面会。翌年、劉氏がしまなみ海道を訪れることで交流はさかんになっていった。その後『サイクリングしまなみ』という、高速道路を封鎖したイベントが発足し、翌年の大会では広島県とも連携して7000人が走る一大自転車イベントとなっているという経緯がある。そして、令和元年11月しまなみ海道は国が推奨するサイクリングルートであるナショナルサイクルルート(以下、『NCR』という)に選出されることとなった。
愛媛県が自転車先進県と呼ばれるようになるまで経緯はとてもスムーズなものに見えるが、その裏側には多くの苦悩があった。河上氏が語る話のなかで最も大切だと感じたのはとてもシンプルな『まずは自転車に乗ってみること、そして乗ってもらうこと』という言葉だ。自転車に乗ることによって楽しさを体感できる、乗り続けるなかで標識の違和感に気づいたり、安全性の欠如にも気づいたりする。気づいたことを共有する相手が自転車に乗っていなければ、理解をしてもらうこと、改善することにも時間を要してしまうだろう。一番大切なことというのは、いちばんシンプルでいちばん難しいことなのかもしれない。 自転車先進県と呼ばれる愛媛県はここからどこへ進んでいくのか。2023〜26年の第二次自転車新文化推進計画で5つの目標を掲げたうえで河上氏は言う「なかでも目標3(歩行者・自転車にやさしいまちづくり)の達成が大切だと思います。そのために、無謀かもしれませんが愛媛県に自転車国際会議を呼びたいと思っています。都市整備のことまでが議論になっている国際会議(Vélo-city Global)を呼ぶことで、議論をするきっかけを作りたい。そうすることでまた新しいことが始まると思っています」構成団体である愛媛県のこれまで、これからの取り組みはSetouchi Véloにとって、ひいては日本の自転車環境にとって大きな影響を与えるものになっていくと期待したい。
鳥取県の自転車活用への取り組み
基調講演の次は鳥取県の自転車に関する取り組みについての発表、開催地発表の時間となる。登壇したのは前畑裕志氏。鳥取県西部地域の魅力を発信する『大山時間』は人口減少が進む鳥取県において、域外から集客することで鳥取県に経済効果を生むことを目的とした商工会が軸となる団体である。サイクルツーリズムのマーケットは拡大を続けており、新たな雇用や移住者の増加など多面的な経済効果が期待されるという。
鳥取県内の自転車環境整備は進んでおり、サイクルステーション整備やレンタサイクル、サイクリングガイドの養成などのインフラに加え、さまざまなイベントも行われている。現在では民間、行政が連携しながら積極的な環境推進の活動が行われているということだった。
続いて登壇した鳥取県のサイクルツーリズム振興監の鈴⽊俊一氏からは、同県全域に整備された多様なサイクリングロードについて、またサイクリングのインフラ整備の現状とこれからについて語られた。鳥取県は令和4年4月にサイクルツーリズム振興室を新設、兼務を含む11名の職員が業務をおこなっている。そのなかで、東西152kmにわたるサイクリングルート『鳥取うみなみロード』を軸にNCR指定を目指しており、現在、矢羽根や注意喚起看板設置などのハード面の整備を進めており、令和6年度末までの完了を予定している。また、休憩スポットや宿泊施設などの整備も進んでいるとのことだった。
鳥取県の今後を見つめて(パネルディスカッション)
すべての発表を終えミーティングの最後には『鳥取県における自転車活用の未来』というテーマでのパネルディスカッションが行われた。門田氏、鈴木氏に加えて自転車二誌の迫田賢一氏(サイクルスポーツ)、山口博久氏(バイシクルクラブ)が登壇した。
まずテーマとして挙げられたのは、現在鳥取県が国の指定を目指して積極的に進めているNCRについてだった。すでにNCRに指定されている、またそのために活動をしてきた愛媛県の河上氏は、「変わったところはまず、NCRのマークが道路に追加されたことです。同じくらいのタイミングでコロナ禍が来てしまいまして、サイクリストが増えてという数字的なデータがまだありません。ただ、NCRになってよかったことは、国のサイクリングルートですから、国土交通省のみなさんが台湾やヨーロッパの自転車の会議やイベントに参加した際に紹介をしてくれています。なので、その効果が出てくる頃ではないかと思っています」と話す。
また、全国のほぼすべてのNCRを取材、実走した観点から迫田氏は「NCRになったからといって誘客が大きく伸びたという事例はあまり聞いたことがないです。『世界に誇れる自転車道を作る』という目標を掲げていますが、なぜここがコースにと感じる場所もありました」と語った。
その流れのなかで、『世界に誇れるルートになるためには?』『鳥取県にはなにが必要か?』という門田氏の質問に「ストーリー(歴史)は必要だと思うんですけど、ゲートウェイの設置があまりうまくいっていないのでは?という印象があります。空港などで一般の旅行者が自転車を意識するようなものが目に入ったりとか、空港でレンタサイクルがあるなどの情報が目に入ってくればよいと思います。それがNCRでも出来ていないところはありますが、一般の方に情報がすっと入るようになればいいと思います」と山口氏は話す。
ヨーロッパでは家族旅行で行った先でEバイクのレンタルをするということは珍しいことではない。サイクリストと呼ばれる自転車乗りだけに寄った観光地というのは少ないと門田氏は話す。
NCR指定を目指す鳥取県の鈴木氏は「先日鳥取空港をゲートウェイとして整備したところでして、これから例えば米子空港や、鳥取、米子駅でウェルカムな雰囲気を作っていけたらと思っています」と話し、サイクリストに限らず地元を案内できるおもてなしの力を鳥取県全体で盛り上げていきたいと語った。
そのほかには、インバウンドの受け入れも積極的に行いたい鳥取県においての問題点として、道路標識において『タンデムはここまで』といったような表記が日本語のみであるなどの標識の問題や、集団で走行する際の安全性(ルート上のポールの適正配置など)、またサイクリングガイドにとっての必要要素などについて話された。
最後に、新たに加入した鳥取県を含めた『Setouchi Vélo全体がどのように進んでいくとよいか』について意見交換がされ、山口氏は「鳥取県がSetouchi Véloに加入して、自転車によい環境整備をしていけば周辺県も関心を持ち、その取り組みは広がっていくと思います。そのいい環境が全国へ広がっていけばいいなと思います」。迫田氏は「鳥取県が加入することで太平洋から瀬戸内エリア、そして日本海へというダイナミックなサイクリングルートができるのかなというネットワーク化に期待しています」。
河上氏は「訪れる人にとって、県境ってあまり関係ないのかなと思っています。それぞれの地域の自然的な特徴があり、文化がある。訪れる人はそういうところを体験したいんだと思います。県境関係なく、来た人が楽しめるようなコンテンツを提供していくためのものだと思います。住んでいる人に対してもマナーなどについてSetouchi Véloの9県が同じような取り組みをして、住んでいる人も自転車のある生活を楽しめるというのが理想だと思います」と、それぞれの思いを語った。
会議の最後に門田氏は言う「広域連携ということで考えると、全体が一緒に、面でやっていくことが大切だと思います。市や県を越えても同じような環境が出来ていくと、いい自転車環境が出来てきて、世界からも選ばれる自転車エリアになっていくと思います」。
瀬戸内エリアから始まったSetouchi Véloは、そのエリアを越えて拡大を続けている。県や市、町などの担当者や有識者が知恵を絞ってそれぞれの方法で行ってきたサイクリング環境の整備であったが、その方法では国内のサイクリング活性化としても、インバンド対策としても難しい状況になってきている。同じ走行環境を目指し、地域の住人たちの自転車への理解度を高めるという広域連携団体の思想は今後さらに拡大していくだろう。