Setouchi Vélo

活動レポート[ACTIVITY REPORT]

MEETING&TRIALRIDE
#活動レポート#高知県

Setouchi Vélo協議会の第3回市町村ミーティング、いの町で開催

2023.09.01

8月23日(水)に高知県吾川郡いの町『亀の井ホテル 高知』において『Setouchi Vélo高知県いの町ミーティング』が開催された。

雨天のためスケジュールは一部変更に

ミーティング前に予定されていたEバイクを使ったトライアルライドは雨天のため内容が変更された。かわりに自転車用ヘルメットの製造・販売をする株式会社オージーケーカブトの柿山昌範氏から自転車走行時のヘルメット着用の重要性についての話。今回のホストタウンである、いの町長池田牧子氏からは同町の仁淀川をはじめとした観光資源についての紹介。プロサイクリストとして海外でのレース活動も行う門田基志氏からはヨーロッパの自転車事情、国土交通省の元自転車活用推進本部事務局次長の金籠史彦氏からは今年ドイツで行われた自転車国際会議『Velo-city2023』の様子が紹介された。

清流、仁淀川アクティビティのいま

定刻通りに始まったミーティングはいの町町長の池田氏のあいさつから始まる。
清流仁淀川の恩恵を受け、夏場にはサップやキャンプなどを目的とし、多くの人々が訪れるいの町。近年では夏場のみならずサイクリング客が増加している。今後のまちづくりにとって、また仁淀川沿いの魅力のアピールのひとつとして、自転車活用は大きなポイントであるとの考えを語った。

続いて、本州四国連絡高速道路株式会社取締役常務執行役員の森田真弘氏が、Setouchi Véloの事務局を代表して登壇。「環境に配慮して、安全で快適な、また世界にも誇ることができるサイクリングの推進エリアとして育てていくそのために関係機関が連携して活動の裾野を広げ、深めていくことが重要と考えている。」

自転車活用推進計画とその目標(基調講演1)

6年前に施行された『自転車活用推進法』は、国、公共団体が官民挙げて自転車活用を推進する法律。

この法律で大事なことは2つ。
国が自転車活用推進計画を作り、公共団体と協力し推進していくことと、自転車活用推進本部という専属の組織を作ることであると、金籠氏は話す。

その目的は4つ。
1つ、自転車をまちづくりに生かすこと。
2つ、サイクルスポーツをしっかりと動かして健康を増進すること。
3つ、サイクルツーリストの観光立国の実現。
4つ、自転車事故のない安全な社会の実現。

その目的のなかで、今回、金籠氏が大きく取り上げたのが3つ目の項目だった。
「日本のサイクルツーリズムに関するポテンシャルは非常に高い」と、海外の有識者は言った。それはサイクルツーリズムに大事な4つの要素、気候、自然、色、文化の要素が世界の中でも、日本の各地域に特色があるからだそうだ。

「いの町町長からの話にもありましたけど、冬には全く違う景色が見られる。全く違うアクティビティができる。そういうふうなことっていうのは、なかなか世界をみても類を見ないというのがあります。そういったところをしっかりと自転車で味わっていけるように。自転車というのは五感を駆使して、その地域に密着しながら人々とふれあったり、地域の固有のストーリーに触れたりする機会の多い体験型のアクティビティ、移動手段になりますので、土地固有のストーリーを体験、味わえるような仕組みをしっかりと、ツールとしての自転車を生かしながら作っていく。それがサイクルツーリズムの環境の構築なのかなというふうに思います。」

サイクルツーリズムにおける宿泊の重要性

コロナ禍を経て、サイクルツーリズムのマーケットは拡大し、注目も集めている。そのなかで、サイクルツーリズムに関心を寄せる事業者や地方自治体も少なくない。
ルーツスポーツジャパンが2018年、2021年、2回行った『サイクリスト国勢調査』。そのなかでどのようなことがわかってきたのか?
コロナ禍を経て自転車を始めた人というのは、イベントやアクティビティに参加したり、地元のガイドと共に走ったりするように、付加価値を求めるとか、家族、友人、団体などとサイクリングを楽しむ人が増加する傾向にあるそうだ。そういったなかで、マーケットは2018年から2021年にかけて59億円増加し1315億円になっている。

では、サイクルツーリズムでどこにお金を使うのだろうか?

サイクルツーリズムの支出で一番大きなものは宿泊、宿泊に誘導することがポイントで、宿泊してもらうきっかけを作ることが大切だという。盗難のリスクを考慮し自転車を安全に保管できる場所の確保、wi-fi設備、キャッシュレス決済などを視野に入れる必要がある。サイクルツーリズムの受け入れ側の利点は「サイクリングで訪れた場所というのは忘れないこと。14年経ってもいの町をこう走ったという思い出はよく覚えています。また来たいな。自転車でなくても」と、金籠氏。自転車ではなくてもまた来たいなと思ってもらうことが、家族や友人への紹介につながったり、移住、定住につながったりするのだという。サイクルツーリズムは心に刺さる体験なのだ。

ナショナルサイクルルート(基調講演2)

国が行っているサイクルツーリズムの大きな施策、政策の一つとしてナショナルサイクルルートという制度がある。
これはルートのブランディングの1つである。有識者の審査を経たうえで海外にも推薦できるルートを国が指定したものだ。全国で6ルートあり、海外へのPRの必要性があることはもちろんだが、まずは主に国内への情報発信をホームページで行っている。

金籠氏は「一番大事なのは、取組体制がしっかりできているかどうか。特に広域でできているかどうかというのが大事だと思います。ひとつの町とかひとつの市とか、ひとつの県レベルはあるかもしれませんが、ひとつの市、町で完結するのではなくて、ボーダー越えて広域で進めていける取り組み体制になるのかどうかをしっかりと確認した上で、ルートのブランディングをする必要がある。」と話す。

サイクルツーリズムをとりまく様々な変化(基調講演3)

「3月には台湾に行きました。6月にはドイツのフランクフルトで、世界中からいろんなメーカーですとか、ツーリズムの関係者が集まるEUROBIKEというイベントがございまして、こちらの方でプロモーションをかけてきたというようなこともやってきました。」

2月にはしまなみ海道でアメリカ、カナダの旅行事業者を招くなど、積極的に海外とのコミュニケーションも行われている。サイクルツーリズムにはさまざまな事例があるが、やはり自然の魅力をしっかりと使うのが大切だと金籠氏は言う。
サイクリングは3シーズンのスポーツと考える人は多いが、近年では日本でも雪上を走るツアーがあるなどサイクリングをとりまく環境は変化している。
特別な体験をしてもらうことが大切で、その土地ごとのオンリーワンを商品として、システムとして作っていくことが大切なのだそうだ。

「サイクルツーリズムっていうのは何も特別なものを見に来ていただくということじゃなくて、地域にとって当たり前のものが地域外、特に海外の方にとっては当たり前でない。地域の日常は外から来る方にとっては非日常ということ。そういったことを味わっていただくようなツアーとか、あるいはそういったサービスというのがいまものすごくバズっている。」

「あとは空港の受け入れ環境の整備ですとか、ガイド育成ももちろん大事です。それからガイドの担い手がなかなか急に増やせないという場合には、セルフガイド型のツアーも同時でやっていく必要があるのかと思います。また、デジタルスタンプラリー方式など、期間を限定する1日のビックイベントではなくて、期間をある程度持った上で、そこをGPSでスタンプラリーしていただくことによって味わっていただくようなシステムというのも最近はやっています。
―地域に負担をかけない持続可能な形。また、その担い手不足にも対応できるような形で期間を分散させるというのはひとつのヒントなのかなという事例です。」

「自転車と公共交通機関の組み合わせで、欧米、台湾では非常に当たり前になっているという話になっていましたけれども、なぜいまこれが必要なのか。一つにはサイクルツーリズムの受け入れ環境が大事だと思われます。ただ、地域では別の問題が色々と生じています。免許返納ですとか、あるいはその地域の公共交通機関が維持できなくなってきている。それらとしっかりと共存共栄していく必要があるのかなというようなところで、公共交通機関の線のモビリティと自転車による円のモビリティを組み合わせることによって面的に動ける。ただ、そこにはその結節点に自転車を使えるか、乗せ込めるかそういうようなシステムをしっかりと作る必要がある。」

基調講演の最後に金籠氏は「自転車で街と人がつながる。自転車はその地域だけで完結するものでなくて、もはやツーリズムをもとに広域で考える。その市だけでなく、県だけでなく、ともすると国だけでなくてどんどんボーダーレスに動いていく。そういうような素晴らしい乗り物だということ。しっかりとその体制をつくるためにも、いろんな関係者が広域でつながっていくことが非常に大事だということです。官民の連携のシステムですとか、あるいは自転車の活用に頑張ってくださる自治体の方々が全国でつながる組織もできております。
―その仕組みの中で、しっかりと全国で情報交換したり、ローカルとローカルがつながったりすることによって面的にすごくいい動きになっている。そういったところの重要性も最後に強調したいと思います。」

このように、サイクルツーリズムを取り巻く環境はさまざまなかたちに、その場所にあったものに変化をしている。

また、ここでは割愛したが、サイクルツーリズムの可能性を広げるEバイクについては、パネルディスカッションの項にて紹介させていただく。

高知県のサイクルツーリズムの取り組み(開催地発表1)

続いてスピーチを行ったのは、高知県文化生活スポーツ部スポーツ課企画監谷内康平氏。
『高知県の紹介』『高知県のサイクルツーリズムの取り組み状況』『高知県のサイクルツーリズムの取り組みの方向性』についてである。

「まず高知の魅力を簡単に紹介します。仁淀川を始め都会では味わうことのできない豊かな自然があるということ。その豊かな自然がもたらす地方ならでは、地元ならではの美味しい食べ物があるというのが高知の特徴で、これらを自転車で楽しんでいただけるというのが高知県のサイクルツーリズムではないかなと思ってます。」

仁淀川をはじめ、高知空港から海沿いを走り干潮時になると渡ることができる咸陽島(かんようとう)へ向かうサイクリングルート、四万十町から愛媛県の宇和島を結ぶJRのサイクルトレイン、日本三大カルストのひとつ天狗高原など高知の自然を満喫できるエリアの紹介、カツオ、ゆずなどの食、皿鉢(さわち)料理といった食文化の紹介がされた。

高知県のサイクルツーリズムの取り組み状況としては、3つの目標が掲げられており、スポーツ課はそのうちの、『サイクリングを活用した観光振興、健康長寿社会の実現』に全力で取り組んでいるという。
主にサイクリングイベントのプロモーションやインバウンドの誘致、市町村などが開いたイベントの支援を行っている。

次に『サイクリングコースのプロモーション』。
[ぐるっと高知サイクリングロード]というコースを策定し、県内全域に観光地を巡る初級から上級まで43のサイクリングコースを設置している。

そして、『サイクルスポーツの振興』。
「来月9月24日、宿毛市で第2回目となるジャパンサイクルリーグの高知大会を開催いたします。こちらは高速道路を使います。ですので、最高時速80km以上というものすごいスピードで駆け抜けますので、ぜひその迫力を現場に来ていただいて堪能していただけたらなと思っております。」

そして4つ目に、『受け入れ環境の整備』として高知のサイクルオアシス協力店の募集。
現在、県内84箇所にそれぞれサイクルラック、空気入れ、のぼりが設置されている。

5つ目に『市町村や民間のイベント支援』。

6つ目に『連帯事業』への取り組みを行っている。
「四国4県で1000kmチャレンジというのを行っておりまして、申込者は4424名というところでございます。こちらはガチ層だけでなく、エントリー層の取り組む仕掛けとして、このような取り組みを4県が連携して今行っているところです。」 そして最後に『情報発信』。「スポーツ×観光、スポーツ×文化というようなところで、いま高知スポーツツーリズムポータルサイト『スポル高知』というのを昨年の12月に設置しております。こちらは単に情報を載せるのではなくて、実際に体験したことを記事で載せていくという読み応えのあるものになっております。」

高知県のサイクルツーリズム、取り組み方向性(開催地発表2)

「まず皆さんの県でも市町村でも同じだと思いますが、少子超高齢化、多様化する観光ニーズ、そしていま急速に伸びているインバウンド、そしてアフターコロナからこういった事業にどのように対応していくべきなのか。我々地方はサイクルツーリズムをどういう方向に進めていくべきなのか。ということを考え直す機会だと思いました。」

それらを踏まえ、勉強会を行い、課題を抽出したり、データ分析をしてターゲッティングをしたり、ポジショニングなどを行っているという。

勉強会を行うなかから出てきたキーワードは3つ。

ひとつ目は『地域(高知)らしさ』。
地域それぞれが持つ資源を再発見して付加価値の向上、価値を磨き挙げいこうというもの。

ふたつ目が『インバウンド』。
「インバウンドにつきましては、政府の方も2030年に6000万人を目指しているということです。今年は2015年の水準まで戻って200万人まで戻ると。皆さんも実感されていると思いますが、このゴールデンウイーク、外国人もたくさん高知にお越しになられました。そして街を歩くと、今までなかったように外国人が本当に多く歩いていることを実感されたんじゃないかなと思っています。」

そして、キーワードの3つ目が『量から質へ』。
「最も大事だと思っています。いま宿泊、飲食、バス、タクシー、電車、そして空港、全てにおいて人手不足となっております。受け入れたいんだけど、受け入れられないオーバーツーリズム。持続的な観光ができないような状況になっているのではないかと。そういったところで我々県の方も、今までは人数をしきりに追いかけていました。業務客数が何人というようなところでしたが、今後は単価であったり、その地域をしっかりと愛してくれたりといった、評価してくれるリピーターの確保。こういった方向にも方向転換も考えていく時期に来ているのではないかと思っております。」

そうしたなかで、施策の方向性として3つのテーマを掲げる。

まずは『人材育成』。
育成は時間をかけて長期的に行い、地域にお金が落ちるマネタイズの仕組みを含めて進めていく。

そして『連携と参加』。
高知広域での連携、または県を跨ぐ連携を今後は考えていくという。いままであった行政が主導の体制ではなく地域がしっかりと参加し、または主体となり行政とともに進めていく。

最後に『プロモーション』。
高知には台湾からのチャーター機やクルーズ船が来るようになった。このようなかたちで行政が使えるネットワークを最大限活用しプロモーションしていくという。

「オンリーワン、高知らしさを磨き上げていくことが大事だと思います。そしてとても大事なことは決してあきらめないこと。最初からあきらめない、我々はできるんだと思ってやっていく。目指すのは持続可能な観光サイクルツーリズムで、地域、そして地域の皆さんが豊かになること。地域に来てもらうために大切なことは、地域の人々が本当に地域を愛してるとか、地域の誇りを持っていることとか、ちょっとあの地域に行ってみたいなとか思うことではないかなと考えているんです。そういった政策をどんどん県の方も進めていきたいと思っております。」

ヘルメット着用の必要性(安全講話)

柿山氏は普段、警察での交通安全管理者講習などでヘルメットについての知識、安全性を伝える講義・講習を行っているヘルメットに関する深い知識を持っている。今回実験データをもとに、ヘルメット着用の必要性について、そしてヘルメットの構造と今起きている新たな問題事例の話がされた。

直近のデータによると、2014年あたりまでは自転車が関連する交通事故は年間10万件を超えていた。2020年では6.7万件まで減少しているのだが、交通事故全体に占める自転車事故の割合は増加しているそうだ。そして、19歳以下と60歳以上の合計がその全体の半数が占めている。自転車事故で死亡した人の損傷部位のトップは頭部だ。ヘルメットを被っていなかった人の致死率は被っていた人の2.2倍。頭部を守れば死亡率は下げられるのだが、それでもヘルメットの着用率が大きく変化することはないそうだ。

続いて2つの実験データが示された。自転車の子乗せシートから子供が頭から落下した場合の頭部内部にかかる応力データ、そして、頭部表面にかかった圧力に時間軸を加えたHIC(頭部障害基準値)のデータ。どちらもヘルメットの重要性を訴えるものである。

ところで、ヘルメットはどのように頭部のダメージを緩和しているのだろうか?

「ヘルメットの仕組み(構造)はあんまり見たことがない思うんですが、オートバイも自転車用もほぼ同じなんです。外側はシェル、PC、ポリカーボネートという硬い素材でできていまして、内側はEPS発泡スチロールです。高性能な発泡スチロールがありまして、それを使ってます。」

一時的な衝撃エネルギーをシェルが受けて分散、内側にあるEPS発泡シェル衝撃吸収ライナーが潰れながら頭部への衝撃を吸収するというのが頭部への衝撃緩和の仕組み。現在はインモールド整形という技術によって、以前と同等の安全性能を維持しながらよりコンパクトなヘルメットを作れるようになっている。安全基準をクリアしているヘルメットの価格差はこの技術によって、軽く作られていたり、頭部が蒸れないようにする通気孔が設けられていたりするなど、複雑な構造によるものであり、安全性については変わらないのだそうだ。

いま起きているヘルメットの異常について

近年温暖化が進んでいるなかで猛暑日も増えている。50℃以上の熱が加わると発泡スチロールがさらに発泡が進んでしまい、衝撃吸収力が落ちてしまうことがあるそうだ。ヘルメットに直射日光を長時間あてる、高温の車内に放置する、子乗せシートのカバーの中に長時間置く、アスファルトの上に置くなど、高温の場所では発泡が進んでしまうので、注意が必要だという。

「最後にヘルメットのルールをもう一回のまとめますと、ヘルメットは壊れることで人の頭を守ります。なので一度つぶれる強い衝撃を受けたヘルメットは、もう使わないでください。上からヘルメットだけをコロンと落とした分には大丈夫です。肝心なのは、中のEPSがへこんでいないことです。使用状況にもよりますが、だいたいの使用期限は購入後3年を目安としています。3年経つと劣化が進むので、それ以上使うと100%の仕事をしてくれないんです。」

ヘルメットは自身の命を守るための一助となるもの。当たり前のことだが事故にあってからその必然性を感じても遅いのである。軽装備でバイクのように高速で走行することもある自転車には必須といえる。

『Eバイク』と日本のこれから(パネルディスカッション)

今回のミーティングの最後に行われたのは、自転車の識者によるパネルディスカッション。
ヨーロッパで流行、そして定着したEバイク(電動アシスト自転車)が、現地でどのように利用されているのか、またそれをとりまく社会事情について、そしてEバイクは日本でどのように活用されていくのかについて話し合われた。

パネラーは4人。
前出の金籠氏、門田氏に加え、株式会社八重洲出版『サイクルスポーツ』誌のシックスホイール事業部部長迫田賢一氏、そして株式会社ADDX『バイシクルクラブ』誌の編集長、山口博久氏である。

ここからは会話形式で抜粋しながらその様子を伝える。

<門田>
ヨーロッパの自転車事情と日本のこれからというテーマで少し前に金籠さんと話をした感じですと、時間が足りないのでちょっとテーマを絞りたいなと思います。EバイクというのはSetouchi VéloでもEバイクを推進しているのでEバイクとそれをとりまく世界の現状がどういうものになっているのかをちょっと話していけたらいいと思っています。さきほどからヨーロッパの話が出ているんですが、Eバイクは電池がリチウムイオンバッテリーです。なので日本に持ち込みにくい。ちょっと言い換えるとEバイクがあると、観光の拠点になるかと思ったりするんですが、その点についていかがですか?

<金籠>
ヨーロッパ。アメリカも含めてですけれども、Eバイクは私達が思う以上にすごく普及している。数字上も恐らくそうだと思います。やっぱりすごいなと思うのは、私もヨーロッパにちょこっと生活させていただいた時に、山の中を走っているとうしろからものすごいスピードで高齢の方に抜かれてるんですよね。老若男女の方々がいろんなシチュエーションを走れるっていう意味で、その楽しさにすごく気づかれている。長距離、それから勾配に強いと言った意味で、特に山間部ではEバイクが力を発揮する。高齢の方も含めていろんなところを走り回っている。すごく流行ってると思います。

<門田>
ナショナルチームでオーストリアに行ったことがあるんですけど、チームで山道を登っていたんです。そしたら、かなり大きなおじいちゃんが後ろから抜いてくるわけですよ。当時はEバイクを知らなくてオーストリア人強い!と驚いた思い出があります。そこでですが、Eバイクって、サイクリストと呼ばれる自転車ウエアを着た人じゃなくて、いろんな人が楽しめるものじゃないのかなと思うわけです。サイクルメディアとして、日本の自転車情報を発信する中枢として日本においての遊び方はどうなりますか?

<迫田>
ちょうど2週間前に愛媛県上島町で2泊3日、Eバイクで夏休みを満喫しました。ゆめしま海道という3つの橋で上島町4島を結ぶルートがあるんですが、自転車で走るのはだいたい50kmちょっと。そこをEバイクで移動して、ヨットで遊ぶ。またEバイクで移動してバーベキューをしたり、2日目以降も、早朝のヨガへ、シーカヤックへ、または釣りのポイントへ行ったりするなど、アクティビティをつなぐツールとして優れていました。 山口:Eバイクはいろんな方が楽しめるアクティビティ。私は競技を楽しんできたが、年齢を重ねて同じように走れなくなってきた。それでも、Eバイクがあることでいままでの友達と同じように遊ぶことができる。自転車を生涯スポーツとして楽しむことができると思います。

<門田>
Eバイクのいいところはジャージを着た人じゃなくて、シュノーケリングとかカヤックとかカヌーとか、キャニオニングとか、普通に観光地に遊びに行って、すぐできるスポーツとかアクティビティとして進んでいけるんじゃないかなとすごく感じています。しまなみ海道はすごく有名なんですけど、往復すると140kmぐらいあります。片道でも70kmぐらい。今治から来島海峡大橋を往復しても20kmくらい。それを一般の人が行くと、なかなか根性がいるんじゃないかなと思うんですけど、そういう壁がすごく低くなって、誰もが楽しめる。観光地としてサイクリストを呼び込むというよりは、その場所に来たさまざまな人が自転車を楽しめる場所になるんじゃないかなと感じるんですよ。いかがでしょうか。

<金籠>
私も外で話をさせていただくときにあえてこういう格好(サイクルジャージ姿)をさせていただいているんですけど、スポーツとしてのサイクルを広げたいっていうだけではなくて、それはプライオリティとしては低くて、その中に自転車の活用しっかり進めていく。観光もそうですし、まちづくりもそうなんですけど、健康もそうなんですけど、それにはやっぱり裾野を広げていかないといけない。つまり、参入障壁というか、自転車に乗ろうかなと今まで乗ってなかった人が自転車に乗って楽しいから、改めて乗るという意味での参入をもっともっと増やしていきたい。

だから逆に言うと、いまジャージを着て楽しんでいる人というよりも、今まで自転車に乗って楽しもうなんてことを考えたこともなかった方々が自転車に乗ってみて、観光地に行って、ましてや山を走っていたら楽しいし、そんな大変じゃないじゃないかこれは。もっと乗ってみようかなっていうところをもっともっと開拓していきたい。それこそが進めて行きたいコアなゾーンだと思っているので、そのコアなゾーンをしっかり広めるためのものすごく有力な道具として、Eバイクというのはすごく政策的にも注目しています。

だからこそ、観光地にも広がっていますし、そういったものをしっかりと広げて、知っていただいて。意外とですね、Eバイクとか電動アシスト自転車って乗ったことがある人少ないですね。自転車って外から見てもそんなに違いません。何が悲しくそんな山なんて越えるのかねと言われるんですけれども、Eバイク一回乗ってごらん。電動アシスト付き釣自転車乗ってごらん。乗ってみると、東京でも同じなんですけれども、自転車でこんな違うものだねっていうことでびっくりされる。そのびっくりこそが活用を推進させる。そこの伸び代なのかなと私は思っているので、その裾野の拡大と言った意味でEバイクってものすごい大事だと思っています。

<門田>
どんな感じに進んでいけば広がるんでしょうか?

<迫田>
いろんなアクティビティを楽しむその移動の手段としてEバイクが楽しい。上りでもしゃべりながら、走れる。移動自体がアクティビティになっている。それがEバイクの大きなポテンシャルだと思います。

<山口>
弊社には登山をはじめいろんなアクティビティの雑誌を刊行していますが、そちらのほうからEバイクへの関心が高まっています。自転車だけならば距離を置く人たちも、電動アシストなら関心を持たれる。そういった層にアプローチしていければおもしろい展開になるのではと考えています。

<門田>
今回乗ってもらって理解してもらうというのはすごく重要だと思っています。それというのは、皆さんがEバイクを知ったうえで、これから取り組んでいくとすごく幅を持ったものができるんじゃないかなと思うんです。全然自転車に乗ったことがないうちの妻をしまなみ海道に連れていったことがあります。僕一応ナショナルランキングでトップテンに入っているんですけど、Eバイクに乗ると僕に勝てると思って上り坂で挑んでくるんですよ。それぐらい普通の人が走っても行けてしまう、どこまででもいけてしまう。あとイベントで、60歳以上のEバイクがサイクリングっていうのをやりました。レクチャーをして往復で40kmぐらい、しまなみ海道の来島海峡橋を渡って亀老山という超絶激坂の山道を登って帰ってきました。平均年齢が70歳くらいかなと思うんですよね。全員が走りきっています。高齢化の日本においてEバイクは何ができるかっていうのを、金籠さんに聞いてみたいところです。

<金籠>
一番はまず、生活の足としてすごく新しいものになれるんじゃないかなと思いますね。いま門田さんがおっしゃったとおり、高齢の方は普通に考えれば体力的には自転車で坂登るのは厳しいよねっていう方々がらくらく亀老山のようなすごい山を登れてしまうイコール、移動手段として極めて年齢を選ばないというものだと思います。なのであえてツーリズムじゃない側から申し上げると免許を返納されて、その後いきなり2輪の自転車きついと思うんですけども、3輪でも格好良かったり、独立サスペンションがついていたり、走行性能そのものが上がっている。その安定性があって、電動アシストが付いて燃料を選ばないような自転車が出てき始めている中で、年齢を選ばない移動手段としての可能性っていうのをEバイクは広げてるかなと思います。

この間たまたま長崎県にお邪魔しました。ものすごく坂が多いので自転車があまり普及していないという数字のデータもあるんですけど、実はそこでEバイクでツアーをやってみたら「この坂もぜんぜん登れて今まで見たことのなかった景色を見られるじゃないか」といって、実はびっくりが広がっている。私は極端なこと言ったんです「坂道は財産ですよ」と。

要は、いままで坂道っていうのは自転車でも歩いていくでもつらいとか、そういう観光としての資源とか、あるいはモビリティとして生活の条件として悪かったものが、逆にEバイクというツールを使うことによって、逆転の発想で、高低差を稼ぐことは当然楽しいので、観光地としての魅力、訪れる場所としての魅力というのがEバイクを使うことによってその価値がアップする。そういう道具でもあるのかなって思います。なので日常、非日常両面においていろんな可能性を広げてくれますし、高齢者の方々が自立的な移動手段として使えるようになれば、デマンド交通が緩和するとかいろいろあると思うんですけど、公共交通が厳しい中で、ないしは免許を返納しなきゃいけないような条件もある中で、自律的に動けるってことは生きがいですとか幸福を実現してくれるツールなのではないでしょうか。

<門田>
メディアのお二人も全国でいろんな自転車の取材をされてきてこれからの可能性について、これからSetouchi VéloにおいてEバイクがこのように活用されたらいいといったご意見があればお願いします。

<迫田>
先日和歌山を3日間、Eバイクで走ってきました。誘客事業のツアーで、参加者は女性が6名、1名を除いてスポーツバイクが初めてという状況でした。にもかかわらず3日間で140kmを完走していました。最後には坂もある状況、初めての女性でも走り切ることができるというのはすごいポテンシャルだなと感じました。

<山口>
カーゴバイクという荷物を運ぶ自転車があるんですが、近年配送業者が活用を初めています。Eバイクも使われていると思うんですが、CO2削減という意味でも、今後そういう面でも活用が進めばいいと思います。

<金籠>
最後にひとつだけ、Eバイクってすごくいいツールだということを、そのツアーの現場、地域の現場の話をいただいたんですけど、ひとつEバイクには他の自転車と比べてデメリットがあります。それは輪行ができないんです。重い。最も軽くても20kmを切るくらいですかね。先ほど高知県さんのプレゼンテーションにもありましたけど、輪行をうまく使いワープする。これは自転車旅が魅力的になるわけなんですけども、Eバイクは外国の方がすごく当たり前に乗ります。これからEバイクをどんどん進めていきます。普及してきます。でも輪行できないんです。つまり、自宅から遠く行くこともできないし、旅先で輪行もできないんです。

じゃあ、何からしようか、サイクルトレインですよね。これもう海外で当たり前にやっています。海外ではヘビーデューティーなフル装備で荷物を全部積んだ自転車でもどこでもそのまま載せられてワープできるので、それが長い旅行を可能にしている。長いルートのほとんど、自転車はそのまま電車やバスも乗せられます。だから何かあったときはフル装備のままEバイクだろうがそのまま載せられるのでワープもできるし、リタイヤもし放題。日本ではそれができない。つまり欧米の方が来た時にEバイクで片道行ったら帰ってこないといけないの。リタイヤした時に電池きれちゃったときにどうやって帰ってくればいいの。なにもないんです。地域の公共交通機関でそれができることによって、非常時と日常と両方の需要を取り込むことができればEバイクもしっかりと公共交通機関のワープ機能をフル活用して、より一層遠くに楽に、楽しく多くの体験ができる。そういった社会システムを作っていかないといけないなっていうところがEバイクを普及させるための条件設定として大事だなということを日々感じています。

趣味が多様化する時代と言われるようになって久しいが、それは年月とともに深度を増している。
過去、自転車乗りたちは不自由を楽しみながら思い思いの地へペダルを漕いでいく少し特別な世界だったが、多くの人々がサイクリングやサイクルツーリズムに親しむいま、またEバイクがさらにその裾野を広げ始めているこれからは、より細やかな配慮や思いやりがサイクルツーリズムを呼び込む、そして再訪してもらう一番の道のようだ。
そのためにはやはり、呼び込む側のその人が自転車の楽しみ、喜びを知り取り組んでいくことが必要になるだろう。