Setouchi Vélo

活動レポート[ACTIVITY REPORT]

TRIALRIDE&ASSEMBLY
#活動レポート#香川県

自転車の健康的側面を明らかにした高松会議自転車の持つ力を感じた総会と庵治トライアルライド報告

2023.12.15

舞台は香川県·高松市。2023年10月24日(火)、Setouchi Véloのトライアルライドが秋晴れの空の下で開催された。会長職の引き継ぎも行われた高松会議の総会と、記念講演の様子も合わせてレポートする。

Setouchi Véloは、瀬戸内地域やその周辺地域を環境に配慮し、安全·快適な世界に求められる「サイクリングの推進エリア」とすることを目的に昨年2022年秋に発足した。それからおよそ1年の節目に、協議会団体の関係者らが高松に集結。そのキーワードは「健康」だ。

風光明媚な海岸線で知られる高松市の庵治エリアを走るトライアルライドに先駆けて、「サイクリングによる健康増進に関するシンポジウム」が、JRホテルクレメント高松にて開催された。パネルディスカッションでは愛媛県·今治市をベースにプロのマウンテンバイクレーサーとして活躍する門田基志氏(株式会社コイデル 代表取締役)がコーディネーターを務め、一般社団法人社会的健康戦略研究所代表理事の浅野健一郎氏、香川県健康福祉部医療調整監の星川洋一氏、自転車専門誌サイクルスポーツ編集部の迫田賢一氏がパネリストとして登壇。健康経営·医療·専門媒体というそれぞれ独自の視点から「健康」をキーワードに自転車を読み解く50分間は、門田氏の軽快なリードもありあっという間に終了した。

通勤で自転車を利用すると仕事でのパフォーマンスが向上すること、膝の負担が少なく有酸素運動ができること、旅の道具としても使えること、そして身体だけでなく精神面にもポジティブな効果をもたらすこと……様々な自転車のメリットが語られた。門田氏が以前開催した60歳以上の方がスポーツバイクデビューするのをサポートするイベントでは、Eバイクが大いに役立ったという。参加者全員が40kmを完走した(!)というエピソードには会場が感心の声で沸いた。

庵治の海岸線をEバイクで満喫 トライアルライド

午後からはそんなEバイクを使用してのトライアルライドが開催された。池田豊人 香川県知事を筆頭としたライド参加者の一行はスタートの前に、事業成就と交通安全のご祈祷を受けに竹居観音寺を訪問。四国最北端の竹居岬にある400年余りの歴史を誇る由緒正しいお寺だ。海岸に面した岩窟にある奥の院は、その厳かさからパワースポットとしても近年は注目されているというが、それも一目見れば納得のロケーション。ほとんど真っ暗な岩窟の中でご祈祷を受けた一行は、改めて今日の日の安全なライドを胸に誓うのだった。

総勢40名近い参加者の多くがスポーツバイク未経験者ということもあり、スタート地点の鎌野漁港で30分間の自転車講習が行われた。参加者たちはEバイクを受け取るやいなや、そのスポーツバイク然とした佇まいに歓声を挙げる。しかしこの日最も参加者から歓声が挙がったのは、ペダルの最初のひと漕ぎ目だった。重厚な自転車の見た目に反して軽やかな踏み出しに、驚きの声と笑みが思わずこぼれる。

普通の自転車と同じように乗れるのがEバイクのメリットだが、スピードが出るスポーツバイクでもあるから安全な乗り方を知っておきたい。講習ではEバイクのアシストモードやギアチェンジの方法、ブレーキのかけ方などが丁寧に伝えられた。グループで走る際にスムーズに意思疎通を行うためのハンドサインは、「サイクリスト」になるための通過儀礼。誰もが真剣に聞き入っていたのが印象的だった。

ライドリーダーからはEバイクならではの注意点として、目線を下げないようにというアドバイスもあった。車の運転中、メーターなどを見る際に、前方を見ていない状態と同様に、メーターや設定画面モニターがハンドルについているEバイクにおいて、これに気を取られて下を見るとあっという間に10mを走ってしまうという。軽快に進むからこその注意点だ。

トライアルライドのコースは、鎌野漁港をスタートし、左手に海と島々を見ながら進むおよそ10km。眺望のよい海沿いのこの道だが、ほとんど平坦な箇所が無いほど起伏に富んでいる。スポーツバイク経験者が最新のロードバイクで走るにしても、なかなか過酷なアップダウンルートだ。しかしいざライドが始まると、最初の登り坂を参加者のほとんどが笑顔で走り抜けていったのには驚かされた。Eバイクだとこんなにも登り坂をスイスイと走れるものなのか。

庵治の海岸線は瀬戸内の島々を臨める好ルートだ。約10kmと短いルートの中に瀬戸内地域の魅力が詰め込まれている。起伏と変化に富んだ道路は走りごたえを求めるサイクリストにもうってつけであり、上りでも爽快感を味わうならEバイクの出番だ。秋の深まる10月下旬でも温かく降り注ぐ太陽の光は瀬戸内地域のそれ。この光を受けてきらきらと反射する穏やかな瀬戸内海に見守られながら、40名近い参加者たちはあっという間にゴール地点の「道の駅 源平の里むれ」へと到着した。

ゴール後には達成感と笑顔が溢れていた。自転車は手軽で身近な乗り物だけれど、非日常の世界に簡単に導いてくれる乗り物でもある。特にこの日、Eバイクに初めて乗ったという参加者たちの表情は、登り坂での軽快さや、風を全身に浴びる爽快さ、自転車の速度だからこそ見える風景をたっぷり味わったことを物語っていた。

普段は自転車に乗らないという玉井優子 広島県副知事は、今日のライドを終えて「登り坂も跨っているだけという感覚でした。ラクに走れて楽しくて、気持ちよかったです。Eバイクという、スポーツタイプの電動自転車があることを知らなかったのですが、乗ってすぐに操縦にも慣れました。Eバイクだと誰でも乗れるんだというのを実感しまして、これからもっと広がるといいなと思いました」と笑顔で振り返る。

ホスト役でもある池田豊人 香川県知事も、参加者たちの満足そうな表情を見て目を細めていた。自身も自転車で走ることで、香川の魅力を再確認したようだ。

「この庵治というエリアは、香川県の中でもとりわけ海岸線が綺麗なところでもあり、実際に走ってみて大変気持ちの良いサイクリングができました」

Setouchi Véloとしては、他地域との連携が重要になる。実際にコースを走ることで大きな絵を描く企画部分と、具体的にそれを落とし込んでいく現場部分のそれぞれの重要性について池田知事は再確認したようだ。

「瀬戸内地域は注目されています。しまなみ海道という世界に名だたるコースも出来ていますので、それに連なるコースを香川、そして瀬戸内沿岸で作っていきたいですね。協議会で四国·瀬戸内全体のマップはすでに作成しました。これからは現場でそれを実際にどううまくつなげていくかというソフト面での対応が必要になります。この協議会が一丸となって、つながるよう進めていければと思います」

そして午前のシンポジウムでも大いに話題となったEバイクについても、ポジティブな体験となったことを語ってくれた。

「自転車に乗るといっても、平坦路を走る分にはいいのですが、どうしても坂が難所になりますね。このEバイクはそれをカバーしてくれるサイクリングの味方だと思いました。海沿いのいいところを、アップダウン気にせず走るEバイクは観光のツールとして魅力的だと感じました」

誰でもサイクリングを楽しめる、という文脈で午前に絶賛されたEバイクの可能性を、知事自らも感じたようだ。誰もがサイクリングを楽しめる社会のその先には、健康というご褒美もついてくる。運動による身体面の健康もさることながら、メンタルにもいいというシンポジウムの内容を実証するかのような参加者たちの溌剌とした表情が印象的なトライアルライドだった。

また、この日並行して一般参加のEバイクサイクリング体験ツアーも行われた。こちらは同じエリアをおよそ30km走るというイベントだったが、まったく距離の長さは問題にならなかったようだ。参加者のみなさんはEバイクの軽快さと庵治の海岸線の美しさを存分に楽しんだ。

列席者たちのほぐれた表情が印象的だった総会

トライアルライドで庵治のサイクリングを堪能した一行は、Setouchi Véloの総会のため再び高松市内に戻った。自身もしまなみ海道を10年以上前に走って以来自転車推進に情熱を燃やす現会長の中村時広 愛媛県知事の「安全対策の徹底とマナーの普及·啓蒙を、異なる地域が共通の思いで取り組んでいきましょう」という掛け声とともに総会がスタート。

構成団体代表として四国経済連合会の佐伯勇人会長は「各地で盛んになるサイクリング環境の整備に、Setouchi Véloが受け皿となって瀬戸内地域を世界有数の受け皿にできれば」と改めて期待を込める。

本四高速の後藤政郎社長からは、Setouchi Véloの活動報告がなされた。主なものに、ゆめしま海道サイクリングコースと四国一周1,000kmルートが追加され、全82ルートとなったこと。サイクリングマップを125,000部、700ヶ所にて配布を行ったこと。公式ウェブサイトのリニューアルや3度のトライアルライドの実施、新たに25団体が加盟し、参加団体が34団体となったことなどが報告された。

そして1年の任期を終えた中村時広 愛媛県知事より、新たに会長職に就く池田豊人 香川県知事へと会長盾のハンドオーバーセレモニーが執り行われた。
池田新会長は香川のサイクリングを多くの人が楽しんだことを見て、「今日のライドを終えて、この役職を引き受けて良かったと思いました。責任を全うしていこう、と走りながら想いを新たにしました」と述べている。

形式的な決め事とその確認になりがちなこうした総会だが、列席者たちの表情がどこかほぐれていて柔和だったのは、総会前にみんなでサイクリングを楽しんだからだろう。そしてそれこそが、自転車の持つ心身の健康に直結するのだということを全員が体感していたに違いない。その意味で、とてもSetouchi Véloらしい一日を、首脳陣たちが自ら過ごした、そんな印象を受けた。

構成団体代表者
構成・参加団体代表者

この日の記念講演として、一般社団法人社会的健康戦略研究所代表理事の浅野健一郎氏が諸外国の知見をふんだんに盛り込んだプレゼンテーションで伝えたのも、自転車がもたらす心身の健康についてだった。浅野氏はSetouchi Véloの成果を地域のウェルビーイング事例として世界で報告していきたいと意気込み、それに参加者たちは大いに勇気づけられた。

「健康」を視野に入れたサイクリングの活用が謳われた高松会議を経て、池田新会長によるSetouchi Véloの今後の進展と取り組みに期待したい。